子どもを対象にした絵画教室には、グループ指導と個別指導そしてオンライン指導の3種類があります。
コロナ禍では、オンライン指導に注目が集まりました。
再び社会が動き始めた今、グループ指導が注目されています。
今回は、子どもの育ちの視点からグループ指導を選ぶメリットについてお話しします。
描く雰囲気にのって描き進められる
子どものやる気は、その場の雰囲気に大きく影響されます。
「グループ指導の塾に通っていたけれど、友達とおしゃべりをしてしまうから個別指導の塾に変えた」という話はよくあることです。
どんなにまじめな子どもでも、楽しくおしゃべりをする雰囲気の中では楽しい方へ流されてしまいます。
コロナ禍ではオンライン指導に人気が集まりました。
オンライン指導は人と接する機会がなくなり、さまざまなリスクが軽減されるメリットがありました。
しかし小さな子どもは、強い意志をもち費用対効果を考えられる大人とは違います。
たった一人で絵を描く雰囲気を作り、気持ちを切り替えることは難しいことです。
オンライン指導や個別指導には、大きなメリットもありますが、自己管理と自律する心が未熟な子どもにとっては高いハードルもあります。
絵画教室のグループ指導は、教室にいるだけで「描く雰囲気」を体で感じます。
教室に入るだけで気持ちを切り替えることができるのです。
周囲の目を意識して準備と管理と片付けができる
幼稚園バスに乗るまでは親に「だっこ」とせがんでいた子どもが、園バスが見えたとたんに親の手を振り払い凛として立つことがあります。
子どもは子どもなりに周囲の目を意識します。
そして周囲の目を意識する気持ちが子どもを成長させます。
「絵を学ぶ」ということだけに注目すれば、マンツーマン指導が受けられる個別指導やオンライン指導の方が指導量は多いでしょう。
しかし子どもの育ちに注目すれば、グループ指導の方が得られることは多いのかもしれません。
子どもが絵画教室で学ぶことは、絵のスキルだけではありません。
家庭ならば親が準備をして片付けまでやってくれたかもしれませんが、教室ではすべて自分です。
準備が遅くなれば描く時間が減り、片づけが遅ければ帰る時間が遅くなります。
あまりにも遅れてしまうと、子どもなりに恥ずかしさを感じます。
筆者の子どもは、片づけが教室で一番遅い子どもでした。
筆者は、要領が悪い子どもの片づけ方をみながら自分自身の「手の出しすぎ」を反省していました。
グループ指導は、子どもだけでなく親にもさまざまなことを教えてくれます。
同年代から刺激を受けることができる
グループ指導の一番のメリットは、子ども同士が刺激を与えたり受けたりできることです。
絵のスキルは個人差がとても大きいです。
デッサン力がずば抜けている子どももいれば、素晴らしい発想力をもっている子どももいます。
自分がもっていないスキルや才能をもっている人との出会いは、子どもに想像以上の刺激を与えます。
また自分が、同年代の子どもよりも優れたスキルをもっていることがわかれば大きな自信になります。
同年代からの刺激は、ときには劣等感を生むこともあります。みんなができているにも関わらず、自分だけができなければ劣等感を生みます。
絵画教室でもよくあることです。
しかし絵画教室には先生がいます。
先生は、さまざまな子どもに接し、子どもの個性を伸ばす方法を知っています。
絵画教室では「できないことをできるようにする教育」ではなく「できることを伸ばす教育」が行われます。
子どもは劣等感でつぶされるのではなく、劣等感を上回る自己肯定感を得て前を向くことができるでしょう。
言葉と絵の両方の表現力が身につく
グループ指導では、みんなの前で自分の作品について話をする機会があります。
「どんな気持ちで作ったのか」「なぜこの色を使ったのか」など作品の魅力を言葉で伝えます。
絵や作品は、言葉を超えられるコミュニケーションです。
しかし表現力や手先の器用さが未熟な子どもは、描き切れなかった部分を言葉で補填します。
自分を表現する手段をたくさんもっていることは、大人になってからも生きる力になります。
グループ指導では、自分の作品を表現する表現力も身につきますが、他の人の話や作品と接することで「受け入れる幅」が大きく育ちます。
大人の中には気に入らない物や人に対して「生理的に受け付けない」と言う人がいます。
これはとてももったいない話です。
「生理的に受け付けない」という言葉には、有無を言わさず受け付けない印象があります。
一方、受け入れる幅が大きい人は、それだけ新しいことを吸収する可能性をもっています。
絵画教室のグループ指導では、たくさんの人の考え方や表現と出会うことで大きく受け入れる心を育てることができます。
感性のちかい友達ができる
感性とは、なにかと出会ったときに感じる心です。
道端に咲く花を見て感動する人となにも感じない人がいることは、感性に違いがあるからです。
感性と価値観は違います。
「私は2時間並んでも100円でラーメンが食べたい」という人と「800円払うから並びたくない」という人とではお金の価値観が違います。
価値観は、ものの価値に対する考え方です。
価値観が近い人は意外とみつかりやすいのかもしれません。
一方、感性がちかい人はなかなかみつかりません。
近くにいたとしても気がつきにくいのです。
だからこそSNSで同じ趣味やファンを探す人が多いのではないでしょうか。
絵画教室には、芸術を大切に思う子どもたちが集まります。
教室に来るだけでSNSのように感性のちかい人たちと出会うことができます。
感性のちかい友達と一緒に感動を共有する喜びは、なににも代えがたいのではないでしょうか。
おわりに
絵画教室には絵が好きな子どもたちが集まります。
絵が好きな子どもたちは、自分を表現することと同じくらい、人の表現をみることが好きです。
多様性という言葉が注目されていますが、多様性を受け入れるためには、自分を受け入れてもらえることが前提ではないでしょうか。
絵画教室のグループ指導には、お互いに受け入れ、受け入れてもらえる雰囲気があります。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。